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【徹底解説】DX投資促進税制とは?認定要件から申請ステップまでポイントを分かりやすく解説

AIやIoTなど世界のデジタル化が進む中、政府が推進しているデジタルシフトの具体策にDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みがあります。企業がDXを進める上では、デジタル技術や設備導入が必要となります。
そのため「DXを進めたいが設備投資のための費用負担がネック」といったことが悩みになっている企業のDX担当者の方も多くいるのではないでしょうか。
DXを推進する政府は、企業の費用負担を少しでも下げるために、優遇措置として2021年からDX投資促進税制を取り入れました。
DX投資促進税制が適用されることで費用負担を軽減することが可能です。
しかしいざ申請しようとしても「そもそも申請の仕方が分からない」、「適用条件が分からない」という疑問点が多く出てくることでしょう。
そこで本記事では、DX投資促進税制の申請から適用まで、必要なポイントを分かりやすく解説していきます。
最後までご覧いただければ、やり方が分からなかった方でもスムーズにDX投資促進税制に申請を行うことができます。
目次
1.DX投資促進税制とは?

DX投資促進税制とは、昨今の産業デジタル化における企業のDX推進をすることを目的に、国が2021年の税制改正の施策として制定した優遇措置です。
税制の優遇策として、研究開発税制の見直しや電子帳簿保存等制度とともに導入されました。制度の概要や制定された背景についてご紹介します。
制度の概要
DX投資促進税制は以下の通りです。
内容 | クラウド技術を活用したソフトウェア関連投資に対し、税額(3%・5%) または特別措置(30%)を税額控除や特別控除として措置 |
条件 | DX認定制度により、DX-Readyであること |
対象 | 経営戦略の一環として、全社規模でDXに取り組む企業 |
期間 | 2021年8月2日から2023年3月31日まで |
DX-Readyとは、企業がデジタルによって変革をできる状態であることを指し、準備ができていることを認定される必要があります。
また対象は全社で取り組んでいる企業のみのため、部署単位や拠点単位で適用されることはありません。
さらに優遇措置を受けるためには、全社レベルでの計画を作成し、経済産業主務大臣が認定した上で、実際に設備の導入が必要になります。
制度が作られた背景
2021年9月、政府は新型コロナウィルスの感染拡大における対応の情報統制ができていなかったことやマイナンバーなどのデジタルを基盤にした制度の管理や掌握が複数の府省庁に分散していたことなどの様々な課題を解決するために「デジタル庁」を発足しました。
デジタル庁の発足をきっかけに「デジタル社会の実現」をテーマにした様々な取り組みが始まっています。なかでもデジタル技術を活用した企業変革(デジタル・トランスフォーメーション)は「デジタル社会の実現」における重要な取り組みの1つです。
だからこそ国はデジタルシフトにおける事業の再構築を企業に求めており、DXを強く推進しています。
とはいえ、企業側からするとDXを進めるためには多くの費用が必要です。
そこで、政府は少しでも企業負担を減らすことを目的にDX投資促進税制を制定しました。
参照元:https://www.soumu.go.jp/main_content/000727132.pdf
2.DX投資促進税制が適用されるまでの4STEP

DX投資促進税制が適用されるまでには以下の4ステップが必要です。取り組む前にどんな流れで適用されるのかをしっかりと把握しておきましょう。流れを事前に把握しておくことで、今後のやることが明確になり、気持ちに余裕を持って準備を進めることができるでしょう。
ステップ1:内容の確認と検討
まずは内容の確認と検討をするステップです。
組織内で、以下を確認してみてください。
- DX投資促進税制を受けるために必要な要件はなにか
- そもそもDX投資促進税制とは、どういった制度なのか
- 自社が適用要件を満たしているか
- 全社的な取り組みになっているのか
とくに全社的な取り組みになっているかは適用されるかどうかにおいて最も重要な点です。
各部門へのシステム状況の現在地を把握することや必要な情報の洗い出し、その上で自社では適用要件が満たせるかどうかを確認、検討していきましょう。
ステップ2:DX認定の取得
DX投資促進税制を適用するためには、先にDX認定を受ける必要があります。
DX認定とは「企業がデジタルによって自らのビジネスを変革する準備が出来ている状態」であるかどうかを国が認定する制度です。
つまり海外旅行に例えると、VISAを取得し、海外に渡航していいですよ。と許可をもらっている状態です。
DX認定制度は「DX推進ポータル」というサイトで簡単に申請できます。
申請のための必要書類もダウンロードから提出までサイト内で一貫しているので安心です。
主に以下の4項目が申請の際に必要になるため、覚えておきましょう。
- 経営ビジョン・ビジネスモデル
- デジタル技術を活用する戦略
- 成果と重要な成果指標
- ガバナンス
ステップ3:事業適応計画の作成と申請
次にDX投資促進税制を受けるために必要な事業適応計画を作成し、経済産業省大臣に提出する必要があります。計画を申請し、経産省に認定されない限りは制度を受けることができません。
事業適応計画には、事業目標、事業内容、投資内容の3点を必ず含めるように心掛けましょう。
また事業適応計画と併せて「情報技術適応に係る確認申請書」も提出する必要がありますので覚えておきましょう。
ステップ4:税務申告と報告書の提出
事業計画認定後は計画に基づき、デジタル技術に関連する設備やシステムなどを導入し、運用を開始します。
2023年3月の適用事業年度が終了したら、税務の申告と実施状況報告書を提出する必要があります。
もし税務申告において、不明な点があれば所轄の税務署に相談することを強くおすすめします。
3.企業が覚えておくべき事業適応計画における3つの認定要件

先ほどご説明した事業適応計画を作成する上では、必ず満たさなければいけない以下の3つの要件があります。
- D要件(デジタル要件)
- X要件(企業変革要件)
- その他要件
それぞれ解説していきます。
デジタル要件
D要件と言われ、ポイントは以下3つです。
- クラウド技術を活用し、他の法人などが有するデータまたは事業者がセンサーなどを利用して新たに取得するデータと既存の内部データをあわせて連携すること
- 会社の意思決定に基づくものであること
- DX認定を受けていること
企業変革要件
X要件と言われ、ポイントは以下3つです。
- 生産性の向上または新需要の開拓を目指すものであること
- 情報技術適応の内容が次の①から③までのいずれかの類型に該当すること
- ①新商品・新サービスの生産・提供
- ②商品の新生産方式の導入、設備の能率の向上
- ③商品の新販売方式の導入、サービスの新提供方式の導入
- 財務の健全性を保ち、持続的なものと見込まれるものであること
その他要件
その他の要件も抑えておきましょう!
- 事業適応計画の実施期間が5年以内であること
- 投資額が過去3年の国内売上高平均額の0.1%以上であること
- 設備などの要件
- ①クラウドシステムの構築または使用に必要なものであること
- ②中古設備でないこと
- ③貸付や産業試験研究に供するものではないことなど
4.DX投資促進税制における留意点

DX投資促進税制をスムーズに申請する際には、事前の準備と注意すべき点とポイントを把握することが重要です。
適用までの期間が長いため、早めの準備が必要
DX投資促進税制の適用期間は2021年8月2日から2023年3月31日までと期限が決まっています。DX認定の取得まで最大4ヶ月、さらに事業計画の承認まで約1ヶ月と、申請から適用までの期間が長いため、早め早めから準備をしておきましょう。
申請業種によって、事業適応計画に記載する要件が異なる
事業適応計画を作成する上で、注意しておきたい事柄は申請業種によって、必要な要件が異なる点です。主に前述したX要件の①〜③における、いわゆる前向きな取り組みのための要件について、記載内容が異なります。
たとえば、製造業の工場における生産性の向上のための設備導入にデジタル技術を活用する場合は、事業適応計画に以下2つの内容を記載します。
①新商品・新サービスの生産・提供
②商品の新生産方式の導入、設備の能率の向
対して、サービス業におけるPOSレジ(例えばAirレジ)の導入など、マーケティングデータを収集・活用するためにデジタル技術を活用する場合は以下の2つを記載する、といった具合に事業内容の違いにより、必要な要件を取り入れると良いでしょう。
①新商品・新サービスの生産・提供
③商品の新販売方式の導入、サービスの新提供方式の導入
データ連携の内容によって税額控除が異なる
データ連携の内容によって、受けられる税額控除の金額が変わってくる点も覚えておきましょう。
イメージは以下の図です。

グループ内の企業間でのデータ連携の場合は、税額控除が3%または設備投資に係る特別償却30%が適用されます。
具体例としては、小売販売業が店内に設置したセンサーなどから顧客の行動データを利用して、自社のマーケティングに活用して収益の向上を図るといったケースです。
一方、第3者が係る外部とのデータ連携は税額控除が5%または設備投資に係る特別償却30%の適用が受けられます。
具体例は、卸売業者がインターネットを介して、取引先の企業や仕入れのサプライヤの注文申請から実績管理までをデータで一元管理することで、業務の効率化やコストの削減を図るといったケースです。
ポイントとしてはデータの連携において、外部の企業が関わっているかどうかといった点が挙げられます。
自社の導入したいものが他社にも有益かどうかを考慮することも重要になるでしょう。
特別税額控除の適用除外要件を確認しよう
「念入りに準備を進めたのに、税額控除の適用が受けられなかった!」ということがないように、適用除外要件についても把握しておきましょう。
以下の3つすべてに該当する場合は、適用外になってしまいます。注意しておきましょう。
- 大企業の所得金額が前事業年度の所得金額を上回ること
- その大企業の平均給与など支給額が、前事業年度以下であること
- その大企業の国内設備投資額が当期の減価償却費の総額の30%以下に留まること
参考元:https://www.youtube.com/watch?v=A0zI5L2cYnQ
5.DX投資促進税制の認定計画事例

DX投資促進税制を活用できている事例を確認していきましょう。
ポルシェの「デジタルツイン」による仮想空間シュミレーション

ドイツの有名自動車会社ポルシェは、デジタルツインという、既存の車を仮想空間に同じようにコピーすることで実車によるテストの課題や制約なしに運転データやメンテナンスの作業計画などの情報をもとに分析や診断が可能なシステムを採用。
ドライバーの運転スタイルに合わせて、あらゆるシュミレーションが可能になるなど
今までの試運転をバーチャルで実現したことにより、効率化を図りました。
結果、工場の生産ライン調整が柔軟になり、製造現場のDXを実現しています。
日系大手の小売企業におけるEコマース向け自動物流センター

日系の大手小売企業の三菱倉庫が、EC向け物流センター「SharE Center misato」を開設。
IT企業と連携し、物流センターにAIとロボットを採用しました。
その結果、品揃えが大幅に増加、配送ルートの最適化による時間コストの大幅短縮、24時間の発送対応など、ヒトを雇えば膨大な人件費と多くの時間的コストがかかる仕組みをロボットに置き変えるDXにより、大幅改善に成功しています。
6.併せて申請しておきたいDX補助金・助成金
新しいシステムや設備を導入する際の費用を少しでも削減するために、DX投資促進税制と併せて他の補助金・助成金を申請することをおすすめします。自社の状況に合うものを申請しましょう。
IT導入補助金
IT導入補助金は、ITツールの導入・費用を補助する助成金制度です。
補助金の金額は以下の表をご参照ください。
種類 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 30万円~450万円 | 2分の1 |
デジタル化基盤導入枠 | 5万円~350万円 | 4分の3、3分の2 |
事業再構築補助金
新分野の展開や事業転換事業を再構築する中小企業などを支援するための補助金です。
新型コロナウイルスの影響で当面の需要や売上回復が厳しくなっている中、ポストコロナ・ウィズコロナの時代に経済社会の変化に対応するために中小企業などの事業再構築を支援することで日本経済の構造転換を促す目的で作られました。
事業再構築の特設サイトから申請が可能です。特設サイトでは採用された事例を確認することもできるため、参考に申請してみるといいでしょう。
補助金の金額は、通常枠・大規模賃金引上枠・回復・再生応援枠・最低賃金枠・グリーン成長枠の5つのパターンがあり、枠や従業員数によって変動はありますが、補助金額は100万円〜最高で1.5億です。
それぞれ対象要件が異なるため、詳しくは特設サイトをご確認ください。
参考元:https://jigyou-saikouchiku.go.jp/
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、
主に中小企業や小規模事業が、国の制度変更に対応するために、中小企業や小規模企業が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資などを支援する補助金です。
補助金額は100〜1000万円程度、こちらも特設サイトから書類のダウンロード、申請まで一括して行うことができます。
参考元:https://portal.monodukuri-hojo.jp/
7.DX投資促進税制は、事前相談の上で申請しよう!

いかがでしたか。今回の記事はDXの制度概要や申請までのステップ、企業事例などを細かくご紹介しました。
これからDX推進を進めていく企業にはぴったりの内容だったのではないでしょうか。
DX投資促進税制で受けられる恩恵は2023年3月までと限られた期間での内容です。
担当者は期限から逆算した上で、正確かつスピーディーな準備と行動が求められることでしょう。また申請内容も複雑なため、自分や素人の企業内だけで進めてしまうと、恐らく大変な時間と工数がかかってしまうのも想像がつきます。
そのため申請を諦めてしまう企業も多いのが実情ではないでしょうか。
とはいえ、DXを今後進めていく企業にとって大変ありがたい制度のため、ぜひ積極的に活用していきたいところです。
もし、不安な点や分からないことが少しでもある場合は、自社で推し進めていくのではなく、税理士の方に事前相談した上で進めていくことをおすすめします。
DX投資促進税制を活用し、ぜひDX推進を進めていきましょう。